意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
(な、何!? 誰、この人……?)

 私は勿論、店員さんや他のお客さんも皆、突然の事態に驚き呆気に取られている。

 ただ、こんな状況でも日吉さんは終始落ち着いていた。

「どういうつもり!? 私との約束断って、他の女と居るなんて!」

 彼女のその言葉で、私は全てを理解した。

 日吉さんは今日、この彼女さんとデート約束をしていたのだと。そして、私のせいでそれを取り止め、一緒に居るところを見て浮気していると勘違いしたのだ。

 すぐに誤解を解かないとと思い口を開きかけると、

「あ、あの――」
「七海、いいから黙ってろ」

 何故か日吉さんはそれを制してくる。

(いやいや、この状況下で黙っていられるはずがないんですけど!? っていうか、どうしてそんなに落ち着いていられるの?)

 日吉さんの意図がまるで分からず、黙ってろと言われた私は仕方なく口を閉じて行方を見守ると、

「俺が誰と居ようと、俺の勝手だろ? お前にとやかく言われる筋合いはない。分かったらさっさと出て行けよ。周りの迷惑だろーが」
「なっ!!」
「それに、今日の約束だってお前が勝手に取り付けてきただけだろ? 気分が乗らないから断ったんだ。そのくらい察しろよな」

 なんて言うか、日吉さんの台詞はとても彼女に対する言葉とは思えない程に辛辣な物言いだった。

「な、何よ、その言い草は! やるだけやって用が済んだらもういらないって訳!? アンタ、ちょっと顔が良いからって人を馬鹿にして……っ!! もういいわ、アンタみたいな男、こっちから願い下げよ!!」

 日吉さんの言葉を聞いた彼女は、まぁ当然と言えば当然の言動だろう。

 顔を真っ赤に紅潮させて言葉を捲し立てると、テーブルに置いてあった水の入ったコップを手に取るや否や、

「さよなら、クズ男っ!!」

 そのコップの水を勢いよく日吉さんにかけた彼女は、そんな捨て台詞を吐いて店を出て行った。

 これは、俗に言う『修羅場』というやつだろうか。先程同様、私や店員さんや他のお客さんは皆、唖然といった表情で一部始終を見ていたのだけど、

「ったく、とんだ災難だ」

 水をかけられ女に振られた張本人はというと、「災難だ」と言うだけで特に堪えた様子すらないどころか、

「おい、七海」
「は、はい!?」
「ハンカチかタオル、持ってないか?」
「え、あ……ハンカチなら……」
「なら貸してくれ、濡れちまったから拭きたいんだ」
「あ、そうですよね、これ、使ってないハンカチですから、どうぞ……」

 マイペースにハンカチを求めてくる始末だった。
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