意地悪な俺様上司と秘密の同居生活～異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした～

　そりゃ、濡れた髪や顔を拭きたい気持ちは分かるけど……他に思う事はないのだろうか。

　彼と私たち傍観者との温度差があまりにも違いすぎるこの状況。

　全く気にしていない彼をよそに、一緒に居る私の方が何だかいたたまれなくなってきて、居心地が悪くなる。

「……お待たせ致しました、ハンバーグ定食です」

　そんな中、ようやく運ばれて来た料理を前に私は思う。この状況下で呑気にご飯とか、無理過ぎると。

　けれど、当の本人はというと、

「腹減ったな、食うか」

　まるで何事も無かったかのように運ばれて来た料理を食べ始めたからびっくりした。

「どうした？ 食わないのか？」
「い、いえ、食べます……けど」
「けど、何だ？」
「どうして、そんなに平然としていられるんですか？」
「は？」
「いや、その……先程の事、です」
「ああ、あれか」
「あれって……あの人、彼女さんなんじゃないんですか？」
「一応、彼女だったけど、もう終わったしな」

　終わったというか、日吉さんが一方的に終わらせただけなのでは……。

「いいんですか？あんな終わり方で……」
「アイツがああ言ってるんだから、いいんじゃないか？」
「そんな言い方……」
「はぁ……。あのな、言っておくが、アイツとは俺から付き合いたくて付き合った訳じゃない。合コンで知り合って、勝手に気に入られて、あまりにも執拗いから仕方なく付き合ったんだ。だから、俺が引き止めるなんて事は絶対ねぇんだよ」

　私が尚も食い下がらない事に若干面倒になったのか、日吉さんは溜息を吐くと彼女との交際経緯を簡単に説明してきた。

　仮に、彼女の猛アタックに折れて付き合ったとしても、先程の彼女の言葉によると恐らく身体の関係だってあっただろうし、例え少しの期間だったとしても彼氏彼女の関係だったのならば、少しは情が生まれたりしないものなのだろうか。彼にとって、恋愛とはどういうものなのだろう。

　日吉さんの話を聞いていた私はどうしても腑に落ちず、つい余計な事を口にしてしまった。

「そんな……面倒くさいとか好きじゃなかったのなら、最初から付き合わなきゃいいじゃないですか。いくら何でも、あれじゃあ彼女さんが可哀想ですよ」

　言い終えて、失敗したと思った。どんなに納得いかなくても他人の事だし、ましてや上司で教育係になった人相手に説教じみた事をしてしまったのだから。