意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
「わぁーすごーい、真っ暗……」
「お化け屋敷なんだから暗くて当然だろ? 阿呆な事言ってないで、さっさと行くぞ」
「あ、ま、待って! 置いていかないでください!」

 恐怖の館に着いた私たちは空いていた事もあってすんなり中へ入れたものの、このアトラクションは途中まで歩いて行き、中盤の方でコースターに乗って出口まで出るというちょっと変わった仕様なのだけど、コースターに乗るまでの歩きの部分が恐怖でしかない。

 勿論一方通行で進路も決まっていて迷う事は無いけど、暗闇の中にぼんやりと照らされた幽霊や血に染った人形類のホラーチックな装飾とおどろおどろしい音響は不気味と言うかなんというか、作り物だと分かっていても恐怖を煽ってくる。

(子供向けの割には結構リアルなんだよね……)

 それ故子供には不人気で、いつも空いている。

 前方を行く人たちの悲鳴や子供の泣き声が聞こえる度びくりと身体を震わせていると、

「七海、やっぱりお前、こういうの苦手なんだろ? 口数減ってる」
「!!」
「ったく、苦手なら苦手って言えよな? ほら、手繋いどけよ」
「……で、でも……」
「さっさと歩かねぇと後ろに迷惑だろーが。ほら」

 言って強引に私の手を掴んだ日吉さんは、少しスピードを上げて歩みを進めて行く。

(不思議……手を繋がれただけなのに、何か、怖くなくなってきた……)

 日吉さんのお陰で無事にコースター乗り場まで辿り着き、二人がけのコースターに乗り込んだ。

「苦手なものは苦手って素直に言えよ?」
「……すみません」
「ま、お前の性格的に俺に弱みを見せたく無かったんだろーが、そもそもここに来るって決めた時に狼狽えてた時点で気付くっつーの」
「…………」

 やっぱり日吉さんは一筋縄じゃいかない相手らしい。

「この後は、飯にでもするか。流石に腹減ったし」
「そうですね」
「何食いたいか決めとけよ」
「え? 私が決めていいんですか?」
「ああ。俺は食えれば何でもいいからな」
「えーそれじゃあ、何にしようかなぁ」

 私がホラー系苦手なのを見かねてか、コースターに乗ってからも話をしてくれていた事で、出口まで怖いと感じる事は一切無かった。
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