意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
「来泉町の遊月イベント企画まで」

 タクシーに乗り込むや否や、日吉さんは運転手さんに行き先を告げる。

 後部座席に並んで座っている私たち。ちらりと横目で彼を覗き見るも、こちらを向く事も特に何か話し出すこともなく、ただひたすら窓の外を眺めている。

 見た感じ日吉さんは若そうに見えるも、恐らく三十代前半と言ったところだろう。

 ブラウン色でツイストパーマがかった無造作に近い髪型で身長も高く、目鼻立ちは整っていて、ちょっと鋭い切れ長の瞳。

 口は悪そうだけど、程よい低音ボイスだし、ちょっと近寄り難い雰囲気もまたミステリアスな感じと言えば聞こえもいい。

 要は、彼が【イケメン】という部類に入るのだという事。

 まぁ、同じ会社の社員というだけで、新入社員の私とどのくらい関わりあいになるのかは分からないけれど、こんなイケメンと一緒に仕事が出来るのは目の保養になるから嬉しいものだ。

 遅刻も免れたし、畏れ多いけどイケメンと一緒に出社なんてやっぱり今日はツイているのかもしれない。

 ――と、思ったのも束の間。

 私はやっぱりツイてなどいなかった。

「本当に、すみませんでした!」

 タクシーを降りた私は、またも日吉さんに深々と頭を下げて謝っていた。

「別に、気にしなくていい」
「後で必ずお返ししますから!」
「いいって言ってるだろ。そんな事より、こんなところでゆっくりしてる暇はない。行くぞ」
「あ、は、はい!」

 タクシーを降りる直前、お財布が入っていなかった事に気付いたのだ。

 一瞬、バッグを落とした時に拾い忘れたのでは? とも思ったのだけど、思い返してみれば今朝、出がけにバッグを変えた際、テーブルの上に置いた財布を入れ忘れた事を思い出した。

 落としたわけじゃなくて良かったけど、財布も持たずにバスやタクシーに乗ろうとしていた私は何とも滑稽だ。

 そして、結局日吉さんに全て支払ってもらうはめになって今に至るわけなのだけど、彼には恥ずかしいところばかり見られていて、気まずさでいっぱいだった。
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