意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
「……う、嘘……、何で? 一体、誰が……」

 明らかに誰かが入って来た痕跡のある部屋の中で、私は恐怖からその場に立ち尽くす。

 そして金縛りにでもあっているかのように、身体が動かなくなる。

(……どうしよう、どうすれば……)

 正常な判断が出来ない中、真っ先に頭に浮かんだのは、日吉さんの顔。

(で、電話……)

 バッグからスマホを取り出した私は震える指で履歴から日吉さんの番号を押して電話を掛けた。

 すると、彼は一度目のコール音で出てくれた。

『どうした?』

 声を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、一気に感情が溢れだす。

「ひ、日吉さん……っ、どうしよ、……怖い、……すぐに来て!!」

 目の前の状況に混乱していた私は上手く伝える事が出来なくて、とにかく早く来て欲しい事を告げると、

「何があった? すぐ戻る。電話は繋いだままにしろ」

 声を荒げた日吉さんが電話を切らないように指示をする。

 彼の声を聞けた事で少しだけ安心出来た私はリビングから出て玄関まで戻り、ドアを背にしゃがみ込む。

 そしてそれから数分、言葉通り日吉さんは本当にすぐに来てくれた。

「七海!」

 電話を繋いだままだったから部屋の前に来てくれた事が分かった瞬間、私は鍵を開けて扉を開き、

「日吉さんっ!!」

 来てくれた彼に勢いよく抱きついた。

「窓……鍵、壊されてて、部屋、荒らされてて、私、怖くて……っ」

 とにかく状況を伝えたくて言葉を口にするけど途切れ途切れにしか出来ない。

 それでも状況を理解してくれた日吉さんは私の身体を優しく抱き締めてくれると、

「もう大丈夫だから落ち着け。とりあえず部屋の中見せてみろ。警察に電話して状況説明するから」

『大丈夫』と言いながら背中を撫でてくれた。

 日吉さんのおかげで落ち着きを取り戻せた私は彼と共に部屋に入ったものの、荒らされた部屋を前にすると恐怖が湧き上がって現実を直視出来なくて、日吉さんが警察に電話をしてくれるのをただ見ている事しか出来なかった。
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