意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
「それじゃあ、この部屋でお願いします」

 いくつか提示された部屋の内見を済ませ、再び不動産屋へ戻って来た私たちは一番気に入った部屋を借りる事に決めた。

 社長の知り合いという事で、敷金礼金や契約年数の縛りも特に無しで借りれる事になった。

 私たちが決めたのは今より職場から少し近くなった場所にあるマンションの一室で、リビングダイニングの他に個室が二部屋、それぞれきちんと部屋が持てる間取りだった。


「――それでは二週間後には鍵をお渡し出来るので、荷物などはそれ以降に運ぶようお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「ありがとうございました」

 諸々の手続きを済ませた私たちは陽も暮れた頃にようやく店を後にした。

「いい部屋が借りられて良かったな」
「はい」
「何だ? 何かあんのか?」
「いえ、その……」
「何だよ?」
「本当に良かったのかなって」
「はあ? 何だよ今更」
「それはそうなんですけど……あくまでも期間限定なのに、日吉さんがわざわざ引っ越すなんて……」
「別にいいんだよ。今住んでるとこもまあそれなりに長いけど、やっぱりもう少し職場から近いとこに変えようかと思ってたし。今回の部屋だって、同居解消した際は新しく部屋を紹介してくれるって言ってるし、問題ねぇよ」
「でも、引っ越しだって、お金も時間も掛かるからそんなに頻繁にしていたら大変なんじゃ……」

 決めてしまったものの、やっぱり私はずっとその事が気掛かりで、ただただ申し訳無い気持ちでいっぱいだったのだけど、

「そんな顔すんなよ。今はお前の安全が最優先だろ? 申し訳無いと思う気持ちがあるなら、それは仕事で返してくれりゃいい。お前を育てるのが教育係の俺の仕事だからな。お前が立派に成長してくれりゃ、俺の評価も上がる。その為にも、仕事に支障が出ない環境で過ごして貰わなきゃ困るんだよ。分かったか?」
「……はい」

 日吉さんはどこまでも優しくて、彼の言う通り私に出来る事があるならそれを一生懸命頑張ろうと思って、コクリと頷いた。
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