意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
 私は引っ張られる形で屋上裏手、音響室からも少し離れた人目につかない場所の奥へ追いやられ、逃げ道を塞ぐように男の人が前に立つ。

 後ろへ下がるもフェンスが背中にぶつかり、逃げ出せない状況に絶望して身体は震えていく。

(どうしよう……どうしたらいいの?)

 焦りはあるものの今はとにかく相手を刺激しないようにする事が一番だと思い直した私は、

「……お話って、何ですか?」

 平静を装いながら、声を絞り出して相手に問い掛ける。

「あの、いつも一緒に居る男は誰なんだよ? アイツ、馴れ馴れしいよ、俺の七海さんに近付いてさぁ」

 目は血走り、怒りを露わにしながら日吉さんの存在を問いただしてくる彼。

「か、彼は……職場の上司です……」
「上司? 馴れ馴れしいだろ! あんな奴……殺してやりたい! っていうか七海さんは今、アイツと一緒に居るんだよね? 何? もしかして一緒に住んでるの? ただの上司じゃないよね? 俺がいるのに……他の男と……」

 ブツブツと怒りを口にしながら私に近付いてくると、

「許せない……俺がいるのに、他の男と……」
「な、何……?」
「俺の物にならないなら、殺してやる!」
「や、嫌っ!!」

 私の返しが気に入らなかったのか、怒りが収まらないらしい彼は突如襲い掛かってきて、逃げられずに馬乗りになられた。

「やだっ、退いて! 離して!!」
「うるさいうるさいうるさい!! じゃああの男と別れろよ! 俺を好きだと言え!! 俺の方が七海さんを想ってるんだぞ!!」
「――ッ」

 片手はナイフを持ち、もう片手は私の首を圧迫してきた。

(苦しい……、助けて……、日吉さん……っ)

 息苦しさと恐怖から死を覚悟した私の瞳に大粒の涙が溢れ出した、その時、

「何やってんだ!! このクソ野郎が!!」
「うわっ!?」
「男を確保しろ!!」
「離せ!! 触るな!!」

 聞き覚えのある声が聞こえてきたと思った瞬間、馬乗りになっていた男が視界から消えると共に、首から手が離れた事で圧迫感が無くなり息を吸えた私は大きく咳き込んだ。

「七海!!」

 そして、身体を起こして息を整えようとしていた私は名前を呼ばれた刹那、思い切り身体を抱き締められていた。

 男から助け、抱き締めてくれたのは――額に汗を滲ませ、息を切らせた日吉さんだった。
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