意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
「大丈夫か!? 怪我は?」
「……日吉……さん」
「おい、七海……」
「うっ……ひっく、怖かった……怖かったよぉ……っ」

 助かった事と、何より他でもない日吉さんが助けてくれたという安心感から、私は子供のように泣き出し、嗚咽を漏らしながら大粒の涙を流していく。

「怖かったよな、もう大丈夫だ。よく頑張ったな」
「うっ、ひっく……ううっ……」

 日吉さんは優しく頭や背を撫でながら、『大丈夫』だと言って私を宥めてくれた。

 あれから騒ぎになってショーは中断してしまい、そのまま中止となってしまった。

 私のせいで申し訳無い気持ちでいっぱいだったけれど、日吉さんは気にするなと言ってくれた。

 事情聴取もあって警察へ行っていた私が解放された頃には既に日も暮れて辺りは薄暗かった。

「お疲れさん」
「日吉さん……」

 警察署の玄関付近でずっと待ってくれていたらしい彼は私の姿を見つけるなり声を掛けてくれた。

 彼は彼で私と一緒に住んでいる事もあって、これまでのストーカー被害の事を詳しく聞かれていたらしい。

「疲れたろ、駅前でタクシー拾うか」

 警察署を出て駅へ向かって行く道すがら、私を気遣ってかタクシーを拾う提案をしてくれる日吉さん。

 ここから自宅までは電車もタクシーもつかわなければ徒歩で三十分くらいかかるけれど、決して歩けない距離じゃない。

 今は外の空気に触れていたくて、

「……出来れば、歩いて帰りたいです……」

 私がそう言葉を口にすると、

「分かった、それじゃあ歩いて帰るか」

 駅へ向かう事を止めた彼は途中の道を曲がっていく。

 暫く無言のままで歩いていた私たち。

 大通りに出て信号に捕まった事で立ち止まると、

「咎める訳じゃねぇけど、何であの時、一人で行動したんだ? 何かあれば必ず伝えろって言ったよな?」

 怒っている訳ではないものの、日吉さんは静かにあの時私が一人で行動した理由を問いかけて来た。
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