意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
「……あの時、早く音響さんのところへ行かなきゃいけなくて、日吉さんは別の階に居たし、不安だったけど、少しくらいなら大丈夫かもって……」

 分かってる。私の考えが浅はかだったと。

 急いでいたとはいえ、少し時間は掛かっても日吉さんに連絡を取るべきだったと。

 結局、私の判断ミスのせいでショー自体が中止になってしまい、多くの人に迷惑が掛かってしまった。

 悔やんでも悔やみきれない私は俯くと、日吉さんは、

「悪い、責めてる訳じゃねぇんだ。ただな、あの時は本当に生きた心地がしなかった。助けが遅かったらと思うと、ゾッとする。お前が無事で良かった。ストーカーの犯人はアイツで決まりだろうからこの件は終わりだろうけど、この先も何が起こるか分からない。今度は何があっても、俺を頼れ。いいな?」

 そう言って信号が変わったタイミングで私の手を取ると、こちらへ顔を向ける事もなく歩き出した。

 繋がれた手の温もりから、本当に心配してくれていた事が伝わってきて、言葉の代わりに『ありがとう』の意味を込めて、私は繋がれていた手を強く握り返した。

(日吉さん、貴方が居てくれ無かったら、私はきっと、大丈夫じゃなかった……)

 今だって、もし一人だったら正直立っているのもやっとだったかもしれない。

 あの時、殺されるかもと思った時、一番に頭に浮かんだのは日吉さんだった。

 いつも助けてくれるから浮かんだのかと思ったけど、落ち着いた今、そうじゃ無かったって分かる。

 死にかけている時に頭に浮かんだのは、その人が一番大切だと思ったから。

 殺されるかもという恐怖の中で、日吉さんに会えなくなるのかもと思ったら、それも怖かった。

 だから今、こうして手を繋いで共に居られる事が何よりも嬉しかった。
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