貴方の声が、心が聴きたい
「────……、…………っか」


遥人さんが何かを小さく呟いたのが聞こえた。

私は聞かなかったふりをして自分の席へと進んだ。

さっき、遥人さんは明らかに傷付いていた。


「へぇ。いいな、澪の席。あったかくて風通しもよくて景色も見れて。眠くなりそう」


何事もなかったかのように“無”に戻った瞳で遥人さんはニヤリと笑った。

私の席にドカッと座ると、私を膝にのせた。

そういえば、とふと思う。


「遥人さん、お昼置いてきたんですか?」


何も持っていない。


「は? もともとそんなもんないし」

「へ? じゃあ、ご飯……」

「ないけど。別にいらなくない」


私はポカンと口を開けて固まった。


「元気がでなくなっちゃいますよ?」

「“元気”? 満腹だったら元気なの」

「いや、満腹は眠くなるのでダメです!」

「ははっ。何それ。面白いしカワイーね」

「またそういうこと…………」

「本心だよ」


なんにも読み取れない“無”に見つめられながら、先程の“無”ではなくなった瞬間を思い出す。

オモチャ1日目にして、遥人さんの知られたくないことを知ってしまったかもしれない。
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