貴方の声が、心が聴きたい

保健室

今日は、外体育があった。

すぐに着替えて校庭に出ると、2階の3年生の教室にいる誰かと目が合った。

窓が開けられて、その人物がハッキリする。

遥人さんだった。

あれ、前は窓際じゃなかった気が………と思いながら小さく手を降る。


「カワイーじゃん。結んでるのも」


結んでる、とは髪のことだろう。

いつもは胸元ほどの長さの髪は結ばずに垂らしている。

だが、体育をするともなれば話は別だ。


「運動するときに邪魔なので」

「なーにやーるの」


遥人さんは窓から身を乗り出して私に話しかけてくる。

まだ10分休憩だからいいものの、遥人さんの場合、授業が始まってもどうせ聞かないだろう。


「短距離です」

「短距離なんかパパッと走って俺とお話しよーよ」

「授業はちゃんと受けますよ」

「真面目だなぁ。授業なんか受けなくても俺がちょっと声をかけるだけで進級だってできるよ」

「不正はしません。実力で掴み取るからこそいいんじゃないですか」

「へぇ。俺にはわかんないや。じゃあ、お昼ね。本棟屋上」

「はい」


私は笑みを返すと、続々と集まる輪の中に混じっていった。



授業が始まって20分くらいが経ったときのことだった。

クラスのムードメーカーの男子達がいつものように騒いでいて、かわらないなぁ、と思ってゆっくり歩いていた。


「徳さん後ろ!!」

男子の声と共に、背中に衝撃が走り、私は前のめりに倒れた。


「うわぁ! 澪ちゃんごめん! 全然見てなくて………」

「いいえ、大丈夫です。ですが、これからはしっかり周りを見ましょうね」

「うん、本当にごめん………って、あ! 澪ちゃん膝怪我してる!」


徳川くんに言われて始めて気がついた。

怪我をしたと分かった瞬間、鈍い痛みが襲ってくる。

ザワザワとクラスメイト達が集まってきて、騒ぎを聞きつけた2階、3階の生徒達が教室から覗く。
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