貴方の声が、心が聴きたい
一章:わがままな貴方

読めない人

いつものことだった。

人の顔色をうかがって、それに合わせて態度をかえる。
そうすれば、人間関係に困ることは一切無かったから。

HRが始まり、ふと窓の外を見つめる。

レンガの駅舎が我を見ろとでも言わんばかりにそびえ立っている。

その視線を何気なく別棟にそそぐ。

………人?

遠目で人の判別はできなかったが、男子生徒だ。

人の身長の3倍以上あるはずの屋上のフェンスの外側に、屋上のへりに座っている。
少しでもバランスを崩したら落ちてしまう危険な場所に。

自殺───?

そう思ったが、動く気は起きなかった。

そこから数分が経ち、やっとHRが終わった。

別棟の屋上に視線を向ける。

───まだ、いる。

仕方なく立ち上がると、別棟へ足を向ける。


院瀬見(いせみ)さん、みんなでカラオケ行くんだけど一緒に行かない?」


クラスメイトに声をかけられて足を止める。


「すみません。行きたいのはやまやまなんですけど、今日は用事がありまして………」


申し訳なさそうに、ちょっと困り顔で言った。


「そっか。じゃあ、また今度ね! 今日はお疲れ様!」


クラスメイトのその言葉を聞いて「では」と教室をあとにする。

本棟から別棟への渡り廊下を進み、階段を登る。

登りきると鉄製の扉が現れる。

ドアノブを捻って扉を開ける。
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