貴方の声が、心が聴きたい
「お願い」


だけど、苦しそうな表情で放たれた遥人さんの言葉に、遠慮がちに口を開く。


「……『ごめんなさい、母さん』と『全部俺のせい。ごめんなさい』はっきり聞き取れたのは、それだけです」


すると、遥人さんは顔を両手で覆った。


「あーあ。ダサいところ見られちゃった。これは、知られたくなかったのになぁ」


自嘲気味に放たれた言葉が心に刺さる。


「私に、なにかできることは、ありますか……?」


この質問が、踏み込んだ領域なのはわかる。

でも、少しでも遥人さんの助けになりたい。
遥人さんの心が知りたい。

そう思いながら床に座り込む遥人さんと同じように、私はソファに背中を預けて床に座った。

そして、躊躇いなくその問いを口にした。


「誰にも言わないこと」

「それじゃ意味がありません。遥人さんは傷ついたままです」

「いいよ、それで。今更だし」

「よくないです。遥人さんがよくても私がよくありません」


ここで引き下がったら駄目な気がして、私は遥人さんに言い返した。

遥人さんは困ったような、でも苦しそうな顔をして無理矢理笑みを作った。


「じゃあさ、今だけでいいから甘えさせて」

「え、甘え……?」


まさかこんな答えが返ってくるとは思ってもいなかったため、私は驚いた。


「あの、甘えるって、具体的にどういう……」

「ヘンなことはしないから……」


戸惑い私なんかお構いなしで遥人さんは私に手を伸ばしてきた。


「あ、え……?」


何をされるのだろうと身構えていたが、そんな必要もなかった。
抱きついてきたのだ。
私の左胸のあたりに右耳を押し付けるようにして。
< 22 / 23 >

この作品をシェア

pagetop