貴方の声が、心が聴きたい
「えと、あの……」

「ん……。やっぱり、心臓の音、落ち着く」


その様は、まるで幼児のようで、遥人さんの存在があまりにも小さく孤独に映った。

こわごわと、遥人さんの背中に腕を回す。


そうしているうちに、遥人さんはまたもや眠りに落ちた。



「遥人さん…………貴方は、どれだけ大きなものを抱えているんですか。……どうすれば貴方は心から笑ってくれますか」



眠る遥人さんに問いかける。

当然、それに対する答えなんて返ってくるわけがない。


それでも、問いかけたくなった。

遥人さんの子供のような寝顔を見ながら、その柔らかい髪をそっと撫でた。




四時間目終了を知らせるチャイムが鳴り響く。
もうお昼休みだ。

気持ちよさそうに眠る遥人さんを起こすのが憚られて五分ほどその寝顔を眺めていると、社会科準備室の扉が開いた。


「遥人〜……って、澪ちゃんいんじゃん」


叶先輩だった。


「え、それなに」


そして、入ってくるなり遥人さんのことをそれ呼ばわりできる精神は素晴らしいと思う。


「なにって……遥人さんですけど」

「いや、そうじゃなくてさ……」


叶先輩は一度飲み込んだ言葉を口にした。


「遥人、不眠症なんだよ。昔から完璧ばっかり求めて頑張りすぎたツケ、みたいな。特に人がいると寝らんないみたいでさ」


叶先輩が遥人さんを見守るその視線は、愛しきものを見守っているような、優しいものだった。


「よかった。……遥人にも澪ちゃんみたいな存在ができて」


私がポカンとしながら叶先輩を見つめていると、叶先輩は気まずそうに目をそらし、手を軽くあげた。


「じゃあね。遥人をよろしく」

「えっと、遥人先輩とご飯に来たんじゃ……」

「いやぁ、この様子だと俺邪魔者だからさ」


そう言って出ていく叶先輩を見送った。
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