貴方の声が、心が聴きたい
謝ると、中城先輩は顔をしかめた。


「誰が謝れなんて言った? 俺は、言ってないよ」


まるで分からない。

今、私の目の前にいる人物が何をどう感じてどんな気持ちで発言しているのか。


「俺が良いって言ってんだからいいの。院瀬見サンもこっち来なよ。俺とお話しようよ」

「でも、あの…………」

「何、危ないこと気にしてんの。気にする必要ないよ。よっぽど運動神経悪くなきゃ落ちない」

「いえ、あの、でも……」

「いいよ。どっちかが危ないときは一緒に落ちようよ。人間、アニメやドラマみたいに人を片手で引っ張りあげるなんてできないんだから」

「でも、落ちたら痛い、ですよ………」


フェンスの向こう側に行く気はまるで起こらなかった。
私の中で、「屋上のフェンス」は生と死を隔てるものだったからだ。

急に中城先輩が静かになった。


そして、しばらくしてから─────


「ふぅん。お前、面白いね。気に入った」


と、不穏なワードを呟いた。


「あの………。先輩………?」

「澪」


突然名前で呼ばれて驚いていると、中城先輩は言った。


「今日からお前は俺のオモチャだ」


あまりにも常軌を逸した言葉に、だけど私は驚きはしなかった。

むしろ、高揚すら覚えた。

この美しき先輩の心を暴きたい。


「───はい。喜んで」


私は無意識のうちにそう答えていた。

すると、中城先輩はやっと立ち上がった。

軽い動きでフェンスをこえると、私のもとへ歩いてくる。


「澪、かわいーね」


顎をクイと上に向かされ、目を合わせられる。

その美しい顔は段々近付いてきて、唇に柔らかいものが触れた。

すぐ目の前で瞳を閉じる中城先輩を見て、少し遅れて理解した。

キス、されてる。

しばらくして中城先輩が離れると、今度は頭を撫でられる。


「あの………中城先輩?」

「いいよ。名前で。敬称もいらない」

「でも」

「俺が良いって言ってるんだから良いよ」

「あの、じゃあ、遥人………さん」

「まあいい」


中城先輩改め、遥人さんは薄っすらと微笑んで言った。


「澪、お前は俺のオモチャだ。だから逆らうことは許さない。俺が会いたいって言ったらすぐに来て。困ったことがあったら絶対に俺を頼って」


少し間をあけて、


「俺以外の男と仲良さそうにしてたら“おしおき”だから」


そう言った。 
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