破局は極上の恋の始まり? 恋人に振られたら幼馴染にプロポーズされました【交際0日婚シリーズ】
「だから、葵。……結婚してくれ」

 はっきりとそう告げられて、手を差し出される。……私は、自然と手を伸ばして、仁くんの手に自分の手を重ねた。

「いいよぉ、結婚しても」

 ふにゃりと笑って、そう言う。仁くんが大きく目を見開いたのがわかった。

「けど、浮気とかしないでよ。それだけ、約束」

 もう頭に冷静さなんてちっとも残っていなかった。都合のいい夢を見ているのならば、その夢に一時期でも溺れよう。そういう、考えだったのだろう。

「あぁ、葵。……絶対に浮気なんてしない。葵だけを一途に愛すし、大切にするから」
「……ふふっ、ありがと」

 仁くんが感極まったように私に抱き着いてくる。……あぁ、いい夢だった。

(フラれた日に見るには、最高の夢。シンデレラストーリーってか……)

 そこまで思って、私は瞼を落とす。眠気には抗えず、私はそのままなんのためらいもなく夢の中に落ちていく。

 どうせ、明日目覚めたら――惨めな私に逆戻り。そう、思っていた。
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