破局は極上の恋の始まり? 恋人に振られたら幼馴染にプロポーズされました【交際0日婚シリーズ】
「まぁ、いいわよ。……あんたにお客さんが来てるから、さっさと着替えて頂戴」
「……お客、さん?」

 え、一体どこの誰?

 目をぱちぱちとさせてそう思う私に対し、お母さんはきょとんとしていた。

「約束してたんじゃないの? だって、さも当然のように『葵を呼んできてください』って言われたんだけど……」

「し、してない! そもそも、何処の誰よ!」

 約束なんてした覚えがない。それに、私のことを葵って呼び捨てにするなんて……。

 そんな風に考えていれば、お母さんはのんきに頬に手を当てていた。

「え、仁くんだけど」

 そして、お母さんがなんてことない風にその名前を口にした。

 ……仁くん。仁くん。

(どこのお宅の仁くんですか!?)

 ……と、思ったけれど。私とお母さんの中の仁くんとは、それすなわち橋村 仁くんでしかない。

 それ以外の仁くんなんていない。むしろ、知らない。

「ま、さっさと着替えて降りてきなさい。……なんでも、あんたに大切なお話があるって、言ってたから」

 お母さんはそれだけを言って、さっさと階段を下りてしまう。

 ……仁くん、仁くん。

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