惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 出入り口から覗いてみたけれど、陽の姿はない。

 トイレかな? と思ってまた改めて様子見に来ようかと思ったとき。


「陽くんならいないわよ」


 ちょっと棘のある口調で陽のクラスの女子に声を掛けられた。


「え?」

「陽くん、ガラの悪い連中に呼び出されて連れて行かれちゃったの」

「っ!」


 ガラの悪い連中と言ったら朝も見たあいつらしか思いつかない。

 そうだよ、あいつらは陽のことを恨んでるんだ。

 陽は私のことばかり心配していたけれど、狙われるとしたら私より陽本人じゃない!


「あんた、陽くんにあんなに大事にされてる姉なんだから助けに行ってあげたら?」

「当たり前だよ! どこ行ったかわかる!?」


 バカにした様な口調と表情の彼女に詰め寄るように問い質す。

 私の反応が予想外だったのか、瞬きしながら教えてくれた。


「せ、生徒玄関の方に入ったから外に出たんだとは思うけど……」

「ありがとう!」


 聞き終えると同時に私は走り出した。

 外に出て、校舎の周りを走る。

 陽が私に何も知らせずにいなくなるとは思えないから、きっと学校敷地内からは出てないと思う。


 陽が簡単にやられるとは思ってない。

 前にあの不良達とケンカしたときは陽の方が圧倒的に強かったから。

 でも、やっぱり心配。

 ケンカしているところを誰かに見られても困るだろうし。
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