惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 でも、陽はやっぱり強い。

 不良たちのナイフをしっかり避けて一人一人動けなくしていってる。

 このままケガも無くまた前みたいに全員伸してしまうんじゃ無いかと思っていたら……。


「くっ! はは、やっぱSudRosaの総長はダテじゃねぇってか? やっぱあの女人質にでもすりゃあ良かったかな?」


 あまりにも一方的だからかな? 不良たちの一人、確か健太って呼ばれてた人が投げやりに言い捨てる。


「……あの女?」

「ああ、お前の義姉ちゃんだよ。朝もイチャついてたもんなぁ? 案外かわいい顔してたし、人質にしてついでに俺たちともイイコトして貰えば良かったぜ」


 常にバカにした態度だった陽が反応したからかな?

 健太は面白がって言いたい放題だ。

 話題にされた私は、正直気持ち悪いとしか思えない。


「へぇ……」


 陽が、地の底を這うような低い声を出す。

 静かに、でもとても怒っている声。


「お前、マジで死にたいらしいな?」


 キレた陽は言い終わると同時に素早く動いた。

 健太の手を蹴り上げナイフを飛ばし、その足で胸部を蹴りつける。


「ぐはっ」


 体制を整えると、今度は拳を振って健太のこめかみ部分をピンポイントで殴っていた。

 そのまま意識が朦朧としている様子の健太に追い打ちをかけようとしていた陽だったけれど、その後ろからもう一人残っていた不良が――。


「陽!」


 私の声と同時に振り向いた陽へ、不良の持っていたナイフが向かう。
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