惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 身体能力が高い陽は避けたけれど、不意打ちだったのかな? 少し手首の辺りを切られてしまった様に見えた。

 でもその程度の傷は大したことは無いのか、陽は難なく健太も最後の不良も伸してしまう。

 地面に倒れている不良たちがしばらくは起き上がれそうにない様子を見て、陽は冷たい声で言った。


「これでお前らが手を出して来たのは二度目だな……でも、三度目はねぇ。次があったらSudRosaへの完全敵対と見なして潰すからな?」

「ひっ」


 起き上がれなくても意識がある不良たちから悲鳴が上がる。

 ここまで言われたら次なんて無いんじゃないかな?


「ああ、それと。俺の義姉ちゃん兼カノジョに手ぇ出しても同じだからな? 肝に銘じとけ」


 もう一つ言い残した陽は、スタスタと私がいるところの方へ歩いてきた。

「陽!」


 私も駆け寄って、すぐにケガをした手首の辺りを確認する。

 傷は深くはないみたいだけれど、しっかり血が出てる。

 私はその痛ましさに眉間のしわをギュッと寄せ、持っていたハンカチを出した。


「こんなのたいしたことないから。てか来なくても大丈夫だってのに」


 呆れるような口調の陽を黙らせるように、私は傷口をハンカチで強めに巻く。

 痛みに「うっ」と小さく呻く陽に、私はポツリとこぼした。
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