惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 でも、どうして甲野と一緒にいたのかって理由はなんとなくわかる。

 笙の父さんは、甲野を刺激するようなSの開発じゃなくて、今のままの南香薔薇で人に役立つものを作れるよう研究して交渉するべきだって主張していたらしいから。

 きっと、笙も俺と同じく父親の遺志を継ぎたいって思ったんだろうって。

 悔しいし、腹立たしいけど……理解は出来た。


 でもだからって大人しくSを渡すわけにはいかない。

 俺はすぐに逃げた。

 禁止区域は整っているのに、人がほとんどいないからまるでゴーストタウンみたいだ。

 途中何度か見つかりそうになって、あちこち擦り傷だらけになりながら一人で走る。

 汗で張り付いた黒い(●●)前髪がウザかった。

 そうしてあるホテルの裏口にたどり着く。

 ホテルの周辺では何台も車があって、二階の大きな窓から見える光はとても明るい。

 人の影もいくつも見えて、何かパーティーでもしているように見えた。


 逃げ切るには体力が持ちそうにないし、今まで人気が無い場所で何度も捕まりそうになったこともあって、人のいるところに行ってみようって思ったんだ。

 人が多い場所なら紛れられるかも、なんて。

 今の俺からすれば浅はかな考え。


 案の定パーティーで着飾った連中になんて紛れられる訳もなくて、ホテルの中を走り回るだけになった。

 隠れては見つかりそうになって、逃げて、また隠れて。

 逃げてるのは変わり無いけど、外で逃げ回るよりは休めたからそうやってしばらく逃げてた。

 その途中で、桃色の髪の女の子とぶつかったんだ。
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