惑わし総長の甘美な香りに溺れて
『きゃっ!』

『あ、悪い!』


 とっさに女の子の腕を引いて、尻餅をつかないようにする。

 反動で俺の胸に飛び込んでくる形になった女の子からは、ふわっと甘く爽やかな花の香りがした。

 キレイな髪と、良い匂いと。

 驚いて見開かれた大きな茶色の目には、同じく驚いた顔の俺が映ってた。

 白い肌に頬がほんのりピンクに染まってて……かわいくて見蕩れた。


『今度はどっち行った!?』

『っ!』


 俺を追いかけて来てた連中の声がして、一気に現実に引き戻される。

 逃げねぇと。

 そう思ったと同時に袖を引かれた。


『こっち』


 桃色の髪の女の子は、そのまま俺をパーティーの休憩室に匿ってくれた。


『確かさっき救急箱を見た気が……』


 部屋の中から救急箱を探し出して、手当てもしれくれて。

 優しくケガしたところに触れて、目を閉じる。


『早く治りますように』

『あんた……』


 心から願うように祈ってくれたその子は、とてもキレイだった……。

 きっと、このときにはもう心奪われてた。

 俺は一目惚れしたんだ、桃色の髪の女の子――モモに。
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