惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 だから、俺はSをモモに預けた。


 どっちにしろ甲野は俺を――Sを諦めない。

 Sがある限り、Nの催眠効果が消される可能性は消えないから。

 なら、俺がSを持っていたらいずれは奪われる。

 それを防ぐには一先ず別の場所に隠すしかない。


 モモに預けて、巻き込んでしまうんじゃ無いかって心配はあった。

 でも他に頼めそうな人はいなかったし……。

 それに、ちょっとだけこれでモモとまた会う口実が出来るって欲もあった。

 そんな欲を出してしまった俺は、この頃からワルい男だったのかもしれない。


 とにかく頼み込んでモモにSを預かって貰って、俺はまた逃げ回った。

 でも案の定捕まってしまって……。


『Sはどこにある?』


 冷たく、感情のこもらない声が問い掛ける。


『知らねぇよ』


 実際、モモの名前すら聞いてなかった俺はSが今どこにあるのかなんてわからなかった。

 俺が捕まった頃には、あのホテルのパーティーはお開きになってたから。

 Sの行方がわからない以上、殺されるなんてこともないはずだ。

 賭けのような予測だけど、それは当たってた。

 多少殴られはしたけど、甲野は俺を殺すような命令はしなかったから。

 でも。
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