惑わし総長の甘美な香りに溺れて
『忘れろ、陽。……全部、忘れろ』
ボーッとしてくる頭の中に笙の声だけが響いた。
忘れろと繰り返す声に、頭の中が徐々に白くなっていくような感覚がする。
強い薔薇の香りにクラクラして……こんなのより、もっと優しくて甘い香りが良いなと思った。
そう、ほんの少し前に嗅いだ……爽やかで甘い花の香りみたいな……。
そこで意識を失った俺は、次に目を覚ましたときには自分や周りのことをなにも覚えていなかった。
***
ゆっくり目を開けると、見慣れない天井が真っ先に見える。
白いカーテンも見えて、俺はもう一度目を閉じ直前の記憶を思い起こした。
……そうだ、バカな不良たちを伸してモモに手当てして貰って。
そこから移動した覚えが無いから、あのまま意識を手放してしまったらしい。
「お? 起きたか陽」
「……なんでモモじゃねぇんだよ」
声が掛けられて、覗き込んできた久斗の顔を見てつい文句を言ってしまった。
「うっせ、悪かったな。でも俺がお前をここまで運んだんだぞ? 少しは感謝しろよ」
「そっか、悪ぃ。ありがとな」
確かにモモの力じゃあ俺を運ぶなんて無理だったろうからな。
久斗はたまに暑苦しくて面倒くさい奴だけど、今は素直に感謝しておいた。
「藤沼は今親に車出してもらえるよう電話してんだよ。すぐ戻ってくるだろ」
「ああ、わかった」
返事をして、ふぅーと息を吐きながらまた目を閉じる。
早くモモに会いたい。
記憶を取り戻して、俺にとってモモがどれほど大事な存在なのか実感した。
一目惚れした相手。
その相手の匂いに誘われて、また好きになった。
好きが二倍になったようなこの感覚をどう消化すれば良いのかわからない。
とにかく早くモモに抱きついて、その香りと存在を感じたかった。
ボーッとしてくる頭の中に笙の声だけが響いた。
忘れろと繰り返す声に、頭の中が徐々に白くなっていくような感覚がする。
強い薔薇の香りにクラクラして……こんなのより、もっと優しくて甘い香りが良いなと思った。
そう、ほんの少し前に嗅いだ……爽やかで甘い花の香りみたいな……。
そこで意識を失った俺は、次に目を覚ましたときには自分や周りのことをなにも覚えていなかった。
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ゆっくり目を開けると、見慣れない天井が真っ先に見える。
白いカーテンも見えて、俺はもう一度目を閉じ直前の記憶を思い起こした。
……そうだ、バカな不良たちを伸してモモに手当てして貰って。
そこから移動した覚えが無いから、あのまま意識を手放してしまったらしい。
「お? 起きたか陽」
「……なんでモモじゃねぇんだよ」
声が掛けられて、覗き込んできた久斗の顔を見てつい文句を言ってしまった。
「うっせ、悪かったな。でも俺がお前をここまで運んだんだぞ? 少しは感謝しろよ」
「そっか、悪ぃ。ありがとな」
確かにモモの力じゃあ俺を運ぶなんて無理だったろうからな。
久斗はたまに暑苦しくて面倒くさい奴だけど、今は素直に感謝しておいた。
「藤沼は今親に車出してもらえるよう電話してんだよ。すぐ戻ってくるだろ」
「ああ、わかった」
返事をして、ふぅーと息を吐きながらまた目を閉じる。
早くモモに会いたい。
記憶を取り戻して、俺にとってモモがどれほど大事な存在なのか実感した。
一目惚れした相手。
その相手の匂いに誘われて、また好きになった。
好きが二倍になったようなこの感覚をどう消化すれば良いのかわからない。
とにかく早くモモに抱きついて、その香りと存在を感じたかった。