惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「なあ、モモ。俺、今すっげードキドキしてんの」


 保健室でしたのと同じように、陽は私の手のひらを自分の胸に当てる。

 そして、もう片方の手が私の髪に差し入れられ、ゆっくりウィッグを取られた。

 パサリと落ちた桃色の髪は、ウィッグを置いた陽の手にすくい取られ口づけられる。


「記憶がもどったらさ、初恋の相手と恋人同士になってるとか……天にも昇る心地ってこんな感じかなって思う」

「え? 初恋?」


 陽の妖しく色っぽい雰囲気にドキドキと鼓動が駆け足になる中、初めて聞く言葉に驚いた。


「そうだよ。しかも一目惚れ」

「ひ、ひとめぼれ!?」


 追い打ちのような告白に、もはや私の心が追いつかない。

 甘い雰囲気と甘い薔薇の香りに包まれながら、甘い笑顔が目の前に近づく。

 いつものように首筋に顔を埋められて、スゥッと匂いを嗅がれた。


「んっ」

「良い匂い……甘いけど爽やかな、花の香り。……二年前、見ず知らずの俺に優しくしてくれたモモは俺にとって光だったよ」


 チュッと首筋にキスをした陽は、そのまま私の頬や耳に甘い口づけをする。


「きっと、記憶が無い間もその光を追い求めてたんだ。だから、モモが欲しくて欲しくてたまらなかった」

「っ……は、るぅ」


 甘い唇は、私に熱を流し込んでいるかのようだった。

 唇が触れるたび、温かく……熱くなっていく。
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