惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「謝りましょう? 陽に。陽が許すかどうかはわからないけれど……ちゃんと、話し合いましょう?」

「……そう、だな」


 私の言葉に頷いた笙さんはグッと目を閉じ、開いたときには強い決意が込められていた。


「じゃあ――」


 ピルルルルル


 陽を探しに行きましょう、と言い出そうとしたら電話の着信音が鳴る。

 笙さんがすぐに自分のスマホを取り出し、サッと顔色を変えてゆっくり電話に出た。


「……はい、笙です」


 硬い表情で電話に出る笙さんに、私もSudRosaの面々も息を潜める。

 このタイミングで、笙さんがこんな表情で電話に出る相手っていったら……。


「すみません、陽はまだ……え?」


 笙さんの目が見開き、そのまま眉間に深いしわを作る。

 嫌な予感に、思わず息を止めて様子を見た。


「っ! はい……はい、了解しました」


 そうして電話を終えた笙さんは、焦りに満ちた顔をしている。


「三川さん……今の電話は?」


 さっき笙さんに詰め寄っていた男の人が声を掛けると、笙さんは悔しげな声で絞り出した。


「陽が……捕まった」

「っ!」

「処分を決めるから、南香薔薇の栽培場所に来いと言われた」

「そんな……」


 陽が、甲野って人たちに捕まってしまった?

 絶望に近い焦燥が血流に乗って全身に巡ってるみたい。

 震えてへたり込みそうになったけれど、何とか踏みとどまる。


 まだ、捕まっただけ。

 処分を決めるために笙さんを呼んだってことは、また記憶を消されたり何か酷いことをされた訳じゃないはず。

 まだ間に合う。
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