惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「その髪は天然ものだな? 若い娘だし、高く売れるだろう」

「なっ!?」


 声を上げたのは陽。

 私は怖くて喉がきゅっと締まったせいで悲鳴も上げられなかった。


「その二人も捕まえておけ」


 甲野の命令に、陽を捕まえていた男たちが動く。

 陽を床に叩き付けるように手を離し、私と笙さんに向かってきた。


「モモに、手ぇだすな……ごほっ」


 相当痛めつけられたのか、陽はなかなか体を起こすことが出来ないみたい。


「ムダだ陽。動くのも辛いだろう? どうせなにも出来ないのだから楽にしていろ」


 まるで哀れむような声を掛ける甲野だけれど、そこに情は欠片もなかった。


「待ってくれ、会長」


 笙さんが私を守るように間に立ち、甲野に声を掛ける。

 でも、その声に甲野が応えることはなかった。


「なにを待つってんだ? 会長はお前たちを処分するって決めたんだよ」


 近づいてきた男の一人がニヤリと笑い笙さんを殴りつける。


「ぐぁっ!」

「笙さん!」


 そのまま壁際に飛ばされた笙さんを心配するけれど、すぐに甲野の手下に腕を掴まれた。


「ひっ! や、離してっ!」


 声は出たけれど、怖くて体が動かない。
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