惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「ごめんね、騙して。でも陽、私を置いて一人で行っちゃいそうに見えたから」


 だから、返してくれって言われたとき偽物の方を渡した。

 一緒に行くなら、直前で謝って交換すれば良いよねって思って。


「うっ……実際に置いてったからな。俺も約束破ったし、モモばかり責められねぇよ」

「じゃあ、お互い様ってことにしよう」


 お互いに苦笑を浮かべて、私はケースからSを取り出す。

 すると陽も立ち上がって近くに来た。


「陽、私がやるよ。休んでて?」

「いや、俺も一緒にやりたいんだ」


 とはいうものの、やっぱり辛いのか少し私の体に身を預けてくる。


「悪い、このままでも良いか?」

「うん、大丈夫」


 お互いに片腕を腰に回すようにして支えて、もう片方の手で青紫色の液体の入った試験管を持った。


「……Sを使って、あの人たちに仕返しされないかな?」


 少し不安で、聞いてみる。

 あの人たちはSが無くなったと思っているだろうから大丈夫だと思うけれど、催眠作用がなくなったことでNが作れなくなったらおかしいって思われるんじゃないかなって。

 でも、陽はちょっと考えてから「大丈夫だろ」と答える。
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