惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「甲野はSが無くなったと思ってるし、Sの効果が出るのはどんなに早くてもワンシーズン後だ。その頃にはここにある南香薔薇は移動してるだろうし、そうなったら場所を変えたせいじゃないか? って言い張ることも出来る」

「それで大丈夫なの?」

「大丈夫だって。元々安定供給出来るほど開発は進んでいなかったんだ。南香薔薇に一番詳しい父さんたちがいない以上、原因も調べようがない」


 確認する私に陽は自信満々で頷き、「それに」と付け加える。


「催眠効果がなくなってNが作れなくなっても、元々の目的だった薔薇の効果を高めた状態ではあるんだ。Nほどじゃなくても金になるものだってことは変わりないからな」

「そっか」


 私が納得すると、陽は促すように機材へ目を向ける。

 つられて私も目を向けて、一緒にSを機材にセットした。

 そして陽が開始ボタンを押すと、コポコポと液体が吸い込まれていく。


「……なんか、初めての共同作業って感じ」

「え?」


 どういう意味? と顔を上げると、いたずらっ子の顔をした陽が熱のこもった目で私を見下ろしていた。


「次の共同作業のときは、モモのウェディングドレス姿で出来るといいな」

「っ、そ、れって……」


 結婚式で、ってこと?

 まさかのプロポーズのような言葉にドキドキと胸が高鳴る。

 これ、返事するべき?

 というか、OKしていいの?
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