惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「は、陽?」


 来てくれたのは嬉しいんだけど、いきなり近くない?

 陽の体温を感じてドキドキ鼓動が早まる中、ポツリと低い声が耳に直接聞こえた。


「だから言わんこっちゃない……」

「え?」


 聞き返すけれど、答えは無く耳の縁にチュッとキスをされる。


「っ!?」


 わざとらしいリップ音に驚いていると、陽は周囲にいる同級生に低い声のまま宣言した。


「萌々香は俺の彼女だから。手ぇ出したら許さねぇよ?」

「っ!?」


 私からは陽の顔は見えないけれど、声の雰囲気と周囲が怖がっている様子を見れば陽がみんなを威圧していることくらいわかった。

 正体を知らなくても、SudRosaの総長の睨みには殺気でも込められているのか一般生徒が立ちうち出来るはずもなく……男子たちは「そう、なのか……」と散っていった。

 女子もたじろぎつつ、「前からべったりだったもんねー」と納得して戻っていく。


「ちょっと陽? どうしてバラしちゃったの?」


 陽の腕を緩めて振り返り、その顔を見て非難する。

 一応つき合っているのは秘密のはずなのに……。

 まあ、秘密の割には元々距離感がおかしかったけれど。

 非難しつつも今更なのかもしれないなんて思う私に、陽は“んべっ”と舌を出して悪びれなく言う。
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