惑わし総長の甘美な香りに溺れて
***

 その日一日は珍獣になった気分だった。

 朝の陽の睨みが効いたのか、詰め寄ってくる人はいなかったけれど遠巻きにずっと見られてて。

 まあ、見慣れてくれば落ち着くよね? きっと。

 でも私が見られていることが気に入らないのか、陽はずっと不機嫌状態。

 それは家に帰るまで続いていて……。


「あの、陽? ごめんね? でも私やっぱりもう偽りたく無くて……」


 家に帰ってきても不機嫌な陽に、私は自室に入る前に声を掛けた。


「私自身の問題でもあるんだけど、もう一つ理由があるの」

「……なに?」


 私の言葉に不機嫌さを少し抑えて陽は聞いてくれる。

 そのことにホッとして、私は伝えていなかった理由を言葉にした。


「あのね……ちゃんと本当の自分のまま、陽の隣にいたいって思ったの。陽は色んな顔を持っているけれど、その全部が本当の陽でしょう? 全部が自分だって言える陽が眩しかったの」


 対して私は本当の自分を隠して地味に徹してた。

 陽みたいに、地味な自分も私だなんて言えるわけもなくて……。

 だからせめて、本当の自分だって自信を持って言える姿で陽の隣にいたかった。

 偽ったままの状態で陽の側にいるなんて、私自身が許せなかったんだ。
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