惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「何って、ナンパしてて……あれ? 俺なんでそんなことしてたんだ? そうだ、健太たちに言われて……って、なんで俺あいつらの言いなりになってんだ?」


 やっぱりおかしい。

 自分が何をしていたかは分かってるのに、その理由を分かってない。

 それに『あいつらの言いなりになってる』って言葉。

 やっぱり、これは……。


「加藤くん、あの人たちの言いなりになってるのっていつから? 何かされたんじゃないの?」

「え? いつから? 何かされたって別に……あ」


 自分自身に驚愕し動揺していた加藤くんは、私の質問に何かを思い出したみたいに少し落ち着きを取り戻して話してくれる。


「そうだ、確か健太たちに良い匂いするから嗅いでみろってなんかの香水嗅がされて……あれ? そのあとどうしたんだっけ?」

「っ!」


 もしかしたらが確信に変わって息を呑む。

 まさか、本当にあったなんて……。


「景子、加藤くんを病院に連れて行かなきゃ」

「え?」

「な、なんだよ? 俺変なもの嗅がされたってことか?」


 私の言葉に二人は驚きの声を上げる。

 私は嫌な感じに早まる鼓動を抑えて、告げた。



「加藤くんが嗅がされたのは、人を意のままに操る香り――通称Nだよ」

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