惑わし総長の甘美な香りに溺れて
***

「じゃあ、私久斗に付き添うね。ありがとう萌々香」


 まだ不安そうな顔をした景子は、そう言って加藤くんが乗せられた救急車に乗り込んでいった。

 加藤くんがNを使われたと判断したあと、私はすぐに医療機関に電話したんだ。


 人を意のままに操る香り・通称N。

 はじめにそれを知ったのはたまたまだった。

 薔薇の香りが好きで、たまにネットで調べている私。


『Nと呼ばれている、人を意のままに操る香りがある』


 薔薇の香りがするというそれの記述を見つけて、そのまま調べ始めた。

 Nは、甘さの中にスパイシーな香りが際立つ独特な薔薇の香り。

 強い催眠効果で、嗅がせた相手を意のままに操ることが出来る。

 変な副作用とかはないけれど、だからこそ使われても気づきにくい。

 はじめは少しボーッとする程度だから気づけないし、操られ始めても自分で決めたことだと思っているから気づけない。

 本人が絶対にしないって思っていることを命じられて、拒否反応からやっとおかしいって気づくらしい。

 正にさっきの加藤くんの状態と一致していた。


 調べていて見つけた、みすず市のHPに記載されていた注意喚起。


『Nが使われたと思われる人を見つけたら速やかに医療機関へお知らせ下さい。N使用者の可能性ありとお伝えください』


 それがあっても正直本当にそんなものがあるの? って疑問だった。

 でも、実際に加藤くんはおかしくなってて、近くの大きな病院に連絡したら速やかに救急車が手配された。
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