惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 太陽みたいな笑顔をする陽が、沈んでいく夕日と同じように見えなくなっていく。

 闇へと進んで行っている様に見えて、胸がザワザワした。

 もしかしたら、陽も加藤くんみたいに誰かに操られているのかもしれない。

 それか、陽の言っていたやらなきゃないことっていうのが南香街ですることなのか。


 迷ったのは一瞬。

 帰らないと、という思いより陽への不安と興味が(まさ)った。

 きっと危ない目に遭う。

 そんな予感もあったのに、私は陽を追いかけるという選択をした。

***

 陽は街の奥、禁止区域である南側へと迷いなく進んでいく。

 人も少なくなって、きっと大きな声で呼べば気づいてもらえる。

 でも、いつもと少し雰囲気の違う陽に声を掛けるのは躊躇ってしまう。


 いつも明るくて人なつっこい陽。

 自然と人が集まるような人気者。

 けれど今は、いつもの明るさがないような気がする。

 人を寄せ付けないオーラがあるって言うか、それでいて人を引きつけるカリスマみたいなものも感じるというか……。


 陽、なんだよね?


 同じ顔をした別の人間と言われた方がしっくりするけれど、ここまでそっくりなんて一卵性の双子でもない限りあり得ないんじゃないかな?

 別人かも、と思ったけれどやっぱりそれはなさそう。

 だからそのまま尾行するようについて行った。
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