惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 ふぅ、とため息をついて視線を本に戻す。

 細かな文章の中に描かれたイラストはピンク色の薔薇(ばら)

 イラストの下には薔薇の香りの効能がつらつらと書かれている。

 アロマエッセンシャルオイルの本をパラパラと見ながら、私は趣味でもある調香(ちょうこう)のレシピを考え始めた。


 ……薔薇は一番好きだけれど、もう少ししたら夏だしメントール成分のあるペパーミントがいいかな?

 アロマだけじゃなくて夏用の香水も欲しいよね。

 まずは柑橘系をミドルノートにして……。

 そんな風に集中し始めたとき、「おはよう、萌々香」と近くから声が聞こえてきた。


「え? あ、おはよう景子(けいこ)


 集中していて気づかなかったのか、幼なじみであり今でも一番親しい友人の(すぎ)景子が私の机のすぐそばに立っていた。

 ロングボブの茶髪はサラサラストレートヘアで、涼し気な目をしたクール系美女だ。

 そしてその隣には左目下の泣きぼくろが特徴的な、一見クール系のイケメン・加藤(かとう)久斗(ひさと)くんがいる。


「加藤くんも、おはよう」


 加藤くんは景子の彼氏だ。

 美男美女カップルで朝から目の保養だな、なんて思う。
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