惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「んんぅっ!」


 吸わないようにと息を止める前に、かすかに香ったのは薔薇の香り。

 とても甘い香りだけれど、ほのかにNと似たようなスパイシーさを感じた。

 Nとは違うのかもしれないけれど、何か関係のあるものなのは確かだ。


 悪あがきのように息を止めて吸わないようにしたけれど、頭を振っても口元を抑えている手は外れない。

 ずっと息を止めているわけにもいかないから、吸い込んでしまうのは時間の問題だった。


 う……も、ダメ……。


 吸ってはいけないって分かっていても、身体は生きるために酸素を求めてしまう。

 本能的に息を吸って、突き抜けるような甘い薔薇の香りに頭の奥がマヒしてしまうような感覚がした。

 呼吸と一緒に何度か吸ってしまうと、頭がボーッとしてくる。

 身体がだんだん熱くなって、力が入らなくて立っていられなくなる。


「おっと、効いてきたか?」


 ずり落ちるように地面にへたり込むと、拘束していた腕が解放された。

 でも、逃げられるような力は出なくて……とにかく熱い。

 呼吸も荒くなって、肌が過敏になっているのかスカートが太ももをかするだけでピクッと反応してしまう。


 これ、何?


「どれどれ?」


 熱くておかしくなった身体に戸惑い、今にも暴れ出しそうな熱を必死で抑えていると健太が私の前へ移動してきた。
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