惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 ケンカをする陽は怖い。

 不良達を嘲笑って昏く笑う陽は怖い。

 でも、私の知っている陽もちゃんと目の前にいる陽なんだって思えたら……なんとか耐えていたのもがあふれ出してしまった。

 だめ、身体の熱が全然収まらない。

 むしろ、もっと熱くなって……。


「モモ?」

「たす、けて……」


 様子をうかがうように屈む陽に訴える。

 こんなの、どうすれば良いのかなんて分からない。

 今、安心して助けを求められるのは陽だけで……だから私はすがるように彼のスーツの袖をつまんだ。


「そいつらに、なにか嗅がされて……陽、熱いの……助けてっ」

「っ!」


 なんとか絞り出して助けを求めると、陽はハッとして潰れている不良達を睨む。


「まさか、媚薬香? あいつらなんてモンを!」


 憎らしそうに睨み、声を荒げる陽に思わずビクッと震える。

 やっぱり、怖い。

 でもその恐怖も熱で惑わされどうでも良くなる。


「はるぅ……」


 自分のものじゃないみたいな甘い声が出てしまって、本当にどうしたら良いのか分からない。

 熱くて、苦しくて、悔しくて……ついには涙が零れてしまった。


「はるぅ、おねがぁい……」

「っ……はぁ、モモ……お前、すげぇヤバイ」

「ふぇ?」


 ヤバイって、何が?


 分からなくて、涙目のまま見上げる。

 陽の黒い目が、戸惑い以外の炎で揺れているように見えた。
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