惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「ちょっとだけ待ってろ。ちゃんと助けてやるから」


 ポン、と頭に手を乗せた陽は、そのまますぐにスマホを取り出し誰かに電話をし始めた。

 倒れてる不良達の回収がどうとか聞こえた気がする。

 でも、私は陽の言う通り待っている間も熱に浮かされていたからちゃんとは分からなかった。


「待たせたな」


 電話を終えて向き直った陽は、そのまましゃがんで立てない私を抱き上げる。

 重いんじゃないかな? とか、恥ずかしいなんて気持ちは浮かんだそばから熱に溶かされた。


「んっうぅ……」

「安心しろ、すぐに楽にしてやるからさ」


 ほんの僅かな刺激で一々ビクッとなる私に、陽は優しく声を掛けてくれる。

 だから、もう任せてしまおうって思った。

 そのまま近くのホテルに入った陽は、フロントに短く声を掛ける。


「上、空いてるよな?」

「あなたは……はい、もちろんです」


 止まることなくスタスタと歩いて行く陽は、フロントの男性の声を聞いているのかどうか。

 まるで空いているのが当然とばかりにエレベーターに乗り込んだ。

 重力に逆らう負荷がかかり、身じろぐとまたビクリと震える。

 耐えきれなくて、陽の肩に腕を回してすがった。
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