惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「モモ、かわい……ホント、あんな奴らに奪われる前で良かった」


 チュッと、まだ残っていた涙を吸う様に私の目尻にキスを落とした陽は、そのまま妖しい笑みを浮かべ呟く。


「モモは俺のにするって決めてたから」

「え……?」


 どういうこと? という問いは口から出る前に溶けてゆく。

 本格的に何も考えられなくなって、ただ陽の腕に身を任せた。

 エレベーターを降りて、陽はどこかの部屋に入る。

 ふかふかな場所に下ろされたのが分かって伏せていた瞼を上げると、そこは今まで横になったことがないような大きなベッドだった。


 私を下ろした陽は、すぐにジャケットを脱いでシャツのそでのボタンを外している。

 ネクタイも取り外し、首元を緩めた陽はどこか大人っぽい色気が出ていた。

 ドキドキと、熱のせいだけじゃない理由で鼓動が早くなる。

 金の髪を揺らし、ベッドに手をつくと緩んだ首元から男らしいたくましさを思わせる鎖骨が見えた。

 金糸の向こうから覗く黒は欲の炎に染まっていて、怖いと思うけれど嫌だとは思わない。

 何をされるのかなんて流石に分かる。

 でも、陽ならいいかなって思ったから……。


「モモ……」


 チュッと頬にキスを落とした陽は、私に優しく語りかける。

 身を任せるように軽く目をつむると、思ってもいなかった言葉が降りてきた。


「安心しろ、最後まではしねぇから」

「……え?」
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