惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 苦言と言っても、心配が大半だっていうのはわかってるけど。


「……」


 その心配する景子に「いいと思ってるよ」って言えないのは、私自身本当にこのままでいいのかな? と少し思っているから。

 自分で決めたことだけれど、このままずっと本当の自分を隠していていいのかな?

 自分を偽ったままで、いいのかな?って。


「……」


 私が答えられないから景子まで無言になってしまった。

 ちょっと気まずい空気になったそこへ加藤くんが声を上げる。


「っていうか景子さ、藤沼に何かもらいに来たんだろ?」


 あえて空気を読まない様な明るい声。

 ちょっと失礼な物言いをすることもあるけれど、こういうときの彼は本当に助かる。

 景子も、そういうところが好きで付き合ってるみたいだし。


「あ、そうそう。頼んでたアロマ出来たって言ってたでしょ?」

「うん、ちゃんと持ってきてるよ」


 私は話題を変えてくれた加藤くんに内心感謝しながら、カバンから小さな茶色の遮光瓶を取り出す。

 可愛いラベルシールが貼ってある、私自作のアロマオイルだ。
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