惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「女の子にとってファーストキスはやっぱトクベツかなーと思ってさ。あんな普通の状態じゃないときに奪われたくないだろ?」

「それは……まあ」


 確かにファーストキスをまともじゃない状態の時に流れで奪われるよりはいいんだけれど……。

 でも、今のだって不意打ちなんじゃあ……。

 なんだか納得いかない心持ちでいると、また陽の顔が近付いてきた。


「ん? は、陽?」

「ん?」


 思わず止めるように陽の肩を軽く押す。


「なんでまた近づいて……?」

「そりゃあ、キスするためだろ? 仕切り直しって言ったじゃん」

「え? いやだって、さっきしたんじゃ……」


 仕切り直しって言って、さっき唇奪ったんじゃないの?


「さっきって……あれで俺が満足すると思ってんの? ホント、モモってかわいいなぁ」


 私のことをかわいいと言いながら見下ろす目は、甘さよりも獲物をいたぶる肉食獣の目に見えた。

 ゾクリと背筋が冷たくなるような目。

 でも、何故か目が離せない。


「口開いて、舌出せよ」

「あ……」


いつもの陽とは違う、昏い目をした危険な男の顔。

怖いのに、やっぱり嫌ではなくて。


「ん、いい子。モモの唇、美味しそう……」

「あ、んぅ」


 私の声を塞ぐ唇は、危険さとは裏腹に優しくて……。
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