惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 あとでお父さんに場所を聞いても『忘れなさい』と言って教えてはくれなかった。

 あのパーティーのあと、主催だった取引先が不祥事で色々不味いことになったみたいで、お父さんは完全に縁を切りたいらしかった。

 それでもパーティー会場がどこだったかくらいは教えてくれてもいいんじゃないかなって思ったけれど、『あんな場所だったとは……』なんて呟くだけでやっぱり教えてはくれなかった。


 でも、その理由が今日ちょっとわかった。

 だって……あのパーティー会場があったホテルは、今日陽と一緒にいたホテルだったんだもの。

 飾られていた花瓶や絵画。絨毯の柄。

 一度見ただけだけれど、印象的だったものは覚えてる。

 ホテルみたいな場所が二年で大きく内装が変わることもないはずだから、きっと間違いない。


 それに、パーティー会場があの南香街立ち入り禁止区域内のホテルだったから、行き帰りの車は外が見えないようになっていたんじゃないのかな?

 それなら、お父さんが『あんな場所だったとは……』なんて言っていた意味も分かる。


「いつか返せればいいと思って保管していたけれど……南香街の禁止区域だったなんて……」
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