惑わし総長の甘美な香りに溺れて
『いつかはつき合うと思ってたけど、まさかいきなりそういうことになるとは思わなかったから完全に冗談のつもりだったんだけど……萌々香』

「な、なに?」

『諦めて全部話して』


 なんていうか、ちょっと真面目な話をするときみたいに声を低くした景子。

 そんな景子にウソはつけない。


「う……ちょっと待って、私も整理したいから」


 でも流石に本当に全てを話すわけにはいかなくて、情報を整理する時間を貰う。

 加藤くんにNを嗅がせた不良たちが私を襲おうとしてきたこととか、媚薬香で熱に翻弄されていたところを陽に助けて貰ったこととかは話せない。

 景子と加藤くんがNに関わらずに済みそうだって安心していたのに、また関わらせるワケにはいかないし、陽に助けて貰ったくだりは単純に恥ずかしいから。


「……その、ちょっとガラの悪い人たちに襲われそうになってね……それを陽が助けてくれて。……で、その流れでつき合うことになったっていうか……」

『ふーん……心配だとでも言われたの? きわどいことされたってさっき言ってたけれど、濃厚なキスでもされた?』

「んなっ!?」


 またしても記憶がよみがえる。

 仕切り直しだって言って触れた唇。

 恋人同士になったから良いよなって、深いキスをしてきた陽。

 うっかりしっかり思い出しちゃって、私は震える声で訴えた。
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