惑わし総長の甘美な香りに溺れて
***

 こっ、こわいぃ!


 南香街の禁止区域の奥、何かの研究施設っぽい大きな建物のホールにコワモテな男の人たちがたくさん並んでいた。

 その間を通りぬけて一段高く設置されている壇上に向かうとか、恐怖以外の何物でも無い。

 なのに、私の手を引いている陽はチラリと私を見て楽しそうに笑う。


「怖がっちゃって、かわい」

「なっ!?」


 怖がらせてゴメンとかじゃなくて、かわいいって……陽の意地悪!

 私はちょっと涙目になりながらも、今日の夕飯では陽の苦手なピーマンをてんこ盛りにしてやろうと決意した。


 怒りのせいか、少し気が紛れたおかげで何とか壇上に上った私と陽。

 先に壇上に立っていた銀髪で三白眼の大人っぽい男の人からの視線が痛い。

 他の人たちからもだけれど、『なんなんだコイツ』って声が聞こえてくるようだった。

 そんな視線に気づいてかいないでか、陽は私の肩を抱きみんなに宣言する。


「コイツは萌々香、俺の女だ。丁重に扱えよ?」


 途端にザワリとホール内が沸く。

 聞こえてくる声はあまり良いとは思えないものばかりだ。


「マジで? 嘘だろ?」

「総長かなりのイケメンなのに、なんであんな芋くさい女を!?」


……まあ、今の私はウィッグつけてるし、地味な格好してるから地味とかブスって言われるのはわかるよ?

でもさ、芋くさいってなに⁉ 田舎くさいってこと⁉ 私、生まれも育ちもみすず市なんですけど⁉
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