惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 いくらなんでもって言葉の数々はちょっと聞き捨てならない。

 とはいえ、コワモテの男達に怒鳴る勇気は流石になかった。


「どうとでも言え。モモのかわいさは俺だけが知ってれば良いんだよ!」


 ざわめく男たちを黙らせるように声を大きく上げた陽は、そのまま私の頭にチュッとキスをする。


「っ!」


 これくらいのことは前から学校でもしていたけれど、やっぱり大勢の前でされるとすっごく恥ずかしい。

 カァッと顔に熱が集まる私は、何か叫び出したい衝動を唇を引き結んで耐えた。


「マジか……」

「あんなのに骨抜きなのか……」


 またしても信じられないって感じの声が上がる。

 でも今度は騒がしくなるよりもシーンと静かになっていった。

 逆にどういう意味よ? と突っ込みたい気分で私はジトッと男達を見下ろした。


「とまあ、モモのお披露目もしたし。……本題に入ろうか?」


 静かになったところを見計らうように、陽が明るい声をガラリと変える。

 明らかに低くなった声に陽を見上げると、冷徹とも言える鋭い目で昏い笑みを浮かべているのが見えた。

 シーンとしていただけの空間が、耳が痛いほどの静けさになる。

 ピリリと痛みをともなうような、緊張感を覚えた。
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