惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「モモは、あんま見んなよ?」

「え?」


 少しだけ優しい声に戻った陽は、そう言い残して私から離れた。

 同じく壇上にいた銀髪の男の人に何かアイコンタクトをしてから、正面にいるSudRosaの面々を睥睨(へいげい)する。


江島(えじま)、出てこい」


 陽が一言命令すると、大勢の男達がいっせいに一点を向く。


「ひっ」


 みんなの視線の先の男は、おびえたように唇を震えさせていた。


「Nの扱いには気をつけろっつったよなぁ? ……会長に消されてぇの?」


 冷たい声でそう言い、壇上から降りた陽。

 陽がその男の元に行けるように、男達が道を開けた。

 陽の言葉から、例の不良達にNを渡していたのは彼なんだと理解する。


 陽はあの人をシメるって言ってたけど、どうするの?

 もしかしなくても暴力的なことするってこと?


 ピリピリとした空気。

 陽の氷のように冷たい怒りが、青ざめていく男に向けられている。

 陽の怒りに釣られるかのように、他の男達も怒りの感情を江島と呼ばれた男に向けているのが分かった。
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