惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 ***

 そのまま施設を出た私は、手を引かれたまま陽と暗くなった南香街禁止区域を歩く。

 普通の街に見えるのに、人の気配が無い街はどこか怖い。

 でも、握ってくれている手がなんだか心強くて安心する。


 暴力をする陽は怖いけれど、同時に強いってことも知っているからかな?


 街灯の明かりに照らされた陽を見上げる。

 かわいい陽は太陽の光が似合うけれど、危険な陽は月やネオンの光が似合うのかもしれない。

 つい素でかっこいいなぁと見とれていたらふと思い出した。

 陽に髪色を知られた日、彼は『外ではウィッグ外さないようにするのは俺も賛成』と言ってた。

 SudRosaが桃色の髪の女を捜してるっていうなら、どうして陽は隠すことを賛成するなんて言ったんだろう?


 ……もしかして、守ろうとしてくれた?


 私の髪色を見ても薔薇姫を連想しなかったなんてことはないはずだ。

 桃色の髪なんて、染めていたとしてもそんなにいないだろうから。


「……ねえ、陽」

「ん? なんだ?」


 確かめたくて呼び掛けると、陽は明るい調子で聞き返してくる。

 でもなんだかちょっと変。

 なんて言うか、危険な自分を隠すように無理矢理明るい陽でいようとしてるみたいな……。

 おかしいな。とは思ったけれど、ひとまず質問を済ませようと私は口を開いた。
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