惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「笙さんから薔薇姫のこと聞いたよ。桃色の髪の女ってさ……もしかして私と関係ある?」

「っ!」

「SudRosaは薔薇姫を探してるんでしょう? なのになんで陽は黙っていてくれてるの? なんで外ではウィッグ外すなって言ったの?」


 息を呑み軽く目を見張る陽に、私は立て続けに聞く。

 ちゃんと知りたいんだって、真っ直ぐ陽の黒い目を見た。


「もしかして陽は――」

「ちょっと待て」


 続けて話そうとした私の唇は、陽の長い指で止められてしまった。

 唇の感触への気恥ずかしさと、単純に動かすわけにはいかない状況に黙らせられる。


「あまり外でその話すんな。誰がどこで聞いてるかわからねぇから」


 少し焦りを滲ませた様子の陽は、指を離すと周囲を見回して私の手を引いた。

 歩き出した先は、とても見覚えのあるホテル。


「ちゃんと話すから、まずこっち来い」

「え? あ、うん……」


 話をするために場所を変えるのはかまわないんだけれど、向かっている場所が場所だけにちょっと躊躇っちゃう。

 だって、そのホテルでとんでもないことをしたのは、つい一週間前のことだったから。
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