惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 前と同じようにフロントを顔パスで通り過ぎ、前と同じ部屋へと連れ込まれる。

 そのままなんとなくベッドに二人で腰掛けると、話をしに来ただけって分かっていても緊張した。


 は、話! 話をするだけだよね!?


「……んとさ。まず聞きてぇんだけど」

「う、うん」


 陽にしては珍しく遠慮がちに聞いてくる。

 さっきから続く違和感を覚えたけれど、別の意味で緊張状態だった私はただ話をうながした。


「さっきからモモが考え込んでるのってさ、薔薇姫のことが原因? 自分と関係あるのかどうかって」

「え? うん、そうだけど」


 わざわざ確認されてキョトンとしてしまう。

 それ以外に何かあったっけ? 無いよね?

 答えると、陽は「はあぁーーー」と深く長いため息を吐いた。


「んだよ。もしかして別れたいとか思われてんのかなって不安になっちまったじゃん」

「へ? ど、どうしてそんなこと!?」


 考えてもいなかったことに私の方が驚く。

 っていうか、私が別れたいって言うかと思って不安だったとか……。

 それはまるで、私のことを好きって思っているみたいじゃない。

 独占欲はあるけれど、恋愛感情なのかはわからないって言ってたのに。
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