惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「いくら何でも江島をシメる現場見るのは怖いだろうと思って笙に連れ出してもらったけどさ、少しは見ただろ? 俺のことマジで怖くなって、つき合うの止めたいって悩んでるのかと思ったんだよ……」


 ムスッと、ふてくされたように話す陽。

 私は数回瞬きして答えた。


「確かに怖かったけど、陽は私が見なくて済むようにって配慮してくれたじゃない。そういう優しい部分にむしろ嬉しいって思ってたんだけど……」

「んだよ……あー恥ずい。嫌われたくなくて怖くないように意識してた俺バカみてぇじゃん」


 本当に恥ずかしいのか、陽は両手で顔を覆って項垂れていた。

 耳が赤い。

 あ、じゃあさっきからなにか様子がおかしかったのはその所為?

 無理して明るい演技してるように見えたのはその所為だったんだって気づいて、私は……。


 どうしよう、陽がかわいい。

 恥ずかしがって耳を赤くして、私に嫌われないように、なんて……。

 それ以上はなんて言い表せば良いのかわからなかったけれど、とにかくキュンキュンが治まらなかった。


「で、でもなんで嫌われたくなくてとかって……陽、私に怖がられたとしても自分のものにするとか言ってたのに」

「……」


 かわいい陽をもっと見ていたい気持ちもあったけれど、つき合おうって言った一週間前とは違った彼の様子がとても不思議だったから聞いてみる。

 すると陽はジッと、私を見つめた。
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